「毎月末、社員からバラバラの形式で送られてくる経費精算のExcelファイル。それを一つずつ開いて内容をチェックし、上長に承認依頼メールを送る…」
この作業だけで、月末の貴重な1〜2日を消費してしまいます。自分も以前は、経理担当者からの「あの申請、どうなってますか?」という催促に追われる毎日でした。
こうした状況、あなたの職場でも起きていませんか?
- 社員ごとにExcelのフォーマットがバラバラで、集計のたびに手作業で統一している
- 上長への承認依頼メールを送り忘れて、月末に大量の未処理申請が発覚する
- 「あの領収書、添付されてましたっけ?」というやり取りが毎月繰り返される
こうした手作業と抜け漏れの温床になりがちなプロセスは、Power Automateを使えば劇的に改善できます。この記事では、社内SEが実務ですぐに使える、PowerAutomate経費精算自動化フローの構築手順をテンプレート付きで解説します。
先に結論:Power Automateで経費精算はここまで自動化できる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 自動化できること | ①申請受付 ②承認依頼 ③データ転記 ④完了・差戻し通知 |
| 必要なツール | Microsoft Forms, Power Automate, SharePoint, Teams/Outlook |
| 期待できる効果 | 月5〜10時間の手作業がゼロに。申請・承認の抜け漏れも防止。 |
| 構築時間の目安 | 約2〜3時間(本記事のテンプレート利用時) |
このフローを導入すれば、手作業による入力ミスや承認依頼の遅延がなくなり、社内SEと経理部門、双方の負担を大幅に軽減できます。
経費精算フローを設計する事前準備
成功の8割は、フローを作り始める前の準備で決まります。いきなりPower Automateを開くのではなく、まず以下の3点を整理しましょう。
① 必要な情報の洗い出し
申請フォームとデータの保存先に、どの項目が必要かをリストアップします。 最低限、以下の項目があれば経費精算の基本要件を満たせます。
- 申請日
- 申請者名
- 所属部署
- 勘定科目(例:交通費、消耗品費、交際費)
- 支払日
- 支払先
- 内容(具体的な用途)
- 金額
- 領収書ファイル
② データ保存先の選定(SharePointリストが最適)
申請データをどこに蓄積するかを決めます。結論から言うと、SharePointリストが最適です。
- 理由1:連携がスムーズ
Power Automateとの親和性が非常に高く、データの読み書きが簡単です。
- 理由2:データ管理が容易
Excelと違い、複数人での同時アクセスに強く、ビューの切り替えやフィルタリングも柔軟に行えます。
関連記事:VBAとPower Automateの違い|社内SEはどちらを使うべきか【結論あり】
③ 承認フローの要件定義
誰が、どの順番で承認するのかを明確にします。最初はシンプルに始めるのがコツです。
- パターン1:シンプル承認
申請者 → 直属の上長 → 経理担当者(確認)
- パターン2:金額による条件分岐
5万円未満: 申請者 → 直属の上長 → 経理担当者
5万円以上: 申請者 → 直属の上長 → 部長 → 経理担当者
まずは最もシンプルなパターン1で構築し、運用が安定してから複雑な分岐を追加するのがおすすめです。自分の経験上、最初から条件分岐を盛り込みすぎると、テスト工数が倍以上になります。
Power Automateで経費精算自動化フローを構築する4ステップ
事前準備が完了したら、いよいよフローを構築します。
1. 申請フォームの作成 (Microsoft Forms)
洗い出した項目を元に、Microsoft Formsで申請用のフォームを作成します。
- ポイント
- 「勘定科目」は選択肢形式にする
- 「金額」は数値形式に設定する
- 領収書用に「ファイルアップロード」項目を追加する
2. 承認アクションの追加と条件分岐の設定
ここが自動化の心臓部です。
- トリガー設定
Microsoft Forms の 新しい応答が送信されたとき を選択し、作成したフォームを指定します。
- 応答詳細の取得
Forms の 応答の詳細を取得する を追加します。
- 承認依頼の開始
承認 の 開始して承認を待機 を選択します。種類は「最初に応答した承認/拒否」を選択し、担当者には上長のメールアドレスを指定します(動的に取得も可能です)。
- 条件分岐の設定
コントロール の 条件 を追加します。承認アクションの 結果 (Outcome) が Approve と等しいかで分岐させます。
3. データ保存・連携と通知設定
条件分岐の「はい」と「いいえ」の中に、それぞれのアクションを設定します。
- 承認された場合(「はい」の分岐)
1. SharePoint の 項目の作成 を追加し、SharePointリストに申請内容を保存します。
2. Teams や Outlook で申請者に「経費申請が承認されました」と通知します。
- 否認された場合(「いいえ」の分岐)
1. Teams や Outlook で申請者に「経費申請が否認されました。理由を確認して再申請してください」と通知します(承認者からのコメントも本文に含めます)。
⚠️ よくある落とし穴: 通知設定でタイムゾーンを変換し忘れると、申請日時が9時間前のUTCで記録されてしまいます。
convertTimeZone関数を使って必ず(UTC)からTokyo Standard Timeに変換しましょう。
convertTimeZone(triggerBody()?['responseDate'], 'UTC', 'Tokyo Standard Time', 'yyyy/MM/dd HH:mm')
4. レシート添付や証憑管理の自動化
Formsでアップロードされた領収書ファイルをSharePointのドキュメントライブラリに自動保存します。
- ファイルコンテンツの取得
OneDrive for Business の パスによるファイル コンテンツの取得 を使います(Formsの添付ファイルは一時的にOneDriveに保存されるため)。
- ファイルの作成
SharePoint の ファイルの作成 を追加します。保存先のサイトアドレスとフォルダーパスを指定し、ファイル名は「申請ID-申請者名.pdf」のように動的な値で命名すると管理が楽になります。
【実践例】社内SEが作ったPower Automate経費精算自動化フロー
実際に自分が作成し、運用しているフローのポイントと、よくある課題への対処法を解説します。
実際に使ってみた結果
- かかった時間: 初期設定に約2〜3時間。テンプレートを流用すれば1時間程度まで短縮できました。
- 削減できた時間: 月末の経費精算対応が毎月8〜10時間 → ほぼゼロに。月換算で約8時間の削減です(環境・件数によって異なります)。
- 詰まったポイント: タイムゾーン変換の設定と、Formsの添付ファイルをSharePointに転送する部分でハマりました。上記の手順通りに進めれば回避できます。
- 正直な感想: 最初はフローのデバッグが面倒で心が折れかけましたが、一度動き出してしまえば本当に手放せません。経理担当者からの催促も完全になくなりました。
結論(社内SEならこう使う)
このフローは「作って終わり」ではなく、運用しながら承認ルートや通知文面を改善し続けるのが前提です。最初はシンプルなパターン1で本番稼働させ、「5万円以上は部長承認が必要」などの要件は安定してから追加するのが現実的なアプローチです。
テンプレートのインポートとカスタマイズ方法
Power Automateにはフローをエクスポート・インポートする機能があります。これを使えば、ゼロから作る手間を省けます。
- エクスポート:完成したフローの「…」から「エクスポート」→「パッケージ(.zip)」を選択します。
- インポート:「マイフロー」画面の「インポート」からZIPファイルをアップロードします。
- 接続設定:インポート時に、FormsやSharePoint、承認などの接続先を自分の環境に合わせて再設定します。
- カスタマイズ:上長のアドレスやSharePointリストのIDなどを、自分の環境の値に修正すれば完了です。
関連記事:Power Automate入門|社内SEが最初に作るべきフロー3選【テンプレ付き】
よくある課題と解決策(再申請、差し戻しなど)
- 課題:差し戻し後の処理が面倒
否認通知に、再申請用のFormsリンクを記載します。クエリ文字列を使って元の申請内容(金額や内容など)をフォームに自動入力してあげると、申請者の手間が省けます。
- 課題:承認者が長期休暇でフローが止まる
「承認」アクションでは複数の担当者を設定できます。また、承認設定で代理人を指定することも可能です。事前にルールを決めておくと安心です。
実際にあった話として、承認者の設定を特定の個人メールアドレス1件だけにしていたケースで、その方が急な長期休暇に入り、1週間以上フローが止まったまま誰も気づかなかった、という状況もあります。代理承認の仕組みを最初から組み込んでおくことを強くおすすめします。
経費精算自動化を成功させるための運用ポイント
フローを作って終わりではありません。社内に定着させるためのポイントを3つ紹介します。
1. ユーザー教育と定着化の推進
- 操作マニュアルの用意
申請者向け・承認者向けに、画面キャプチャ付きの簡単なマニュアル(1〜2ページ)を作成します。
- 説明会の実施
15分程度の簡単な説明会を開き、デモを見せながら質疑応答の時間を作るとスムーズに導入できます。
関連記事:【実践編】社内SE専用AIアシスタントの作り方|GPTsでマニュアル検索を効率化する
2. セキュリティと監査ログの設定
- SharePointリストの権限設定
リストの設定で、ユーザーが「自分で作成したアイテム」しか閲覧・編集できないように権限を絞り込みます。経理担当者には全アイテムの閲覧権限を与えます。
- 監査ログの活用
Power Automateの実行履歴は、そのまま「いつ、誰が、何を申請し、誰が承認したか」の監査ログとして機能します。
⚠️ よくある落とし穴: フローの所有者が個人アカウントになっていると、その人が退職した際にフローが停止してしまいます。必ず、情報システム部で管理している共有メールボックスやサービスアカウントを所有者としてフローを作成しましょう。
Power Automate経費精算自動化のまとめ
- 成功の鍵は事前準備:「項目洗い出し」「データ保存先決定」「承認フロー整理」を丁寧に行いましょう。
- 4つのツールを連携:
FormsPower AutomateSharePointTeams/Outlookを組み合わせます。 - スモールスタートで進める:まずはシンプルな承認フローから始め、運用しながら改善を重ねていきましょう。
この仕組みを一度作ってしまえば、面倒な月末の定型業務から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。最初の2〜3時間の投資で、毎月8〜10時間が返ってくる計算です。社内SEとして、これほどコスパの良い取り組みはなかなかありません。
関連記事:社内SEが自動化すべき業務10選|現場で使える具体例と実装手順
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