SaaSアカウントを棚卸しする方法|社内SEが実践する情報漏洩対策と効率化【チェックリスト付き】

社内SEノウハウ

「退職した社員のアカウント、ちゃんと全部消せてますか?」

こう聞かれて、即答できる社内SEは少ないと思います。自分も以前、棚卸しをしようとして初めて気づいたのですが、把握できていないSaaSが思った以上に多かったんです。

具体的にはこんな状況、ありませんか?

  • 退職者のSlackアカウントが2ヶ月後に発見された
  • 現場が勝手に契約したツールが請求書を見るまで存在を知らなかった
  • 誰も使っていないライセンスに毎月お金が出ていた

こうした状態になっているなら、SaaSアカウントの棚卸しは今すぐ着手すべき案件です。

結論から言えば、定期的かつ体系的なSaaSアカウントの棚卸しは、情報漏洩対策とコスト削減に直結する、社内SEの必須業務です。

この記事では、SaaSアカウントの棚卸しを効率的に進めるための具体的な手順と、属人化を防ぐための仕組み化について、明日から使えるチェックリスト付きで解説します。

なぜ今、SaaSアカウントの棚卸しが社内SEに必須なのか?

SaaSアカウントの棚卸しが必要な理由は、大きく2つです。

  • 深刻なセキュリティリスクの低減
  • 見過ごせない無駄なコストの削減

放置すれば、会社の信用と財務の両方にダメージが及びます。

退職者アカウントが引き起こす情報漏洩リスク

最も危険なのは、退職者のアカウント、いわゆる「ゴーストアカウント」の放置です。

  • 不正アクセスの踏み台にされる
  • 元従業員による機密情報の持ち出しに悪用される

これらのアカウントはサイバー攻撃の侵入口になりやすく、顧客情報や社内機密が外部に流出する原因になります。


実際にあった話として、アカウント管理をExcelで行っていた結果、削除漏れが発生し、退職者がVPNおよびSaaSにアクセスできる状態が数ヶ月間続いていたというケースがあります。 発覚したのは別件のセキュリティ監査がきっかけでした。「ヤバい、うちもありえる」と感じた方は、ぜひ棚卸しを優先してください。


年間数百万円にもなる「休眠アカウント」の無駄なコスト

在籍はしているものの、全く利用されていない「休眠アカウント」も見過ごせません。利用実態のないアカウントにライセンス費用を払い続けることになるからです。

調査によると、100名規模の企業でも、SaaSの棚卸しによって年間120〜360万円の無駄なライセンス費用を削減できる可能性があります。一つひとつの費用は小さくても、積み重なれば経営を圧迫する規模になります。

【4ステップで実践】手動で行うSaaSアカウント棚卸しの全手順

まずは手動で棚卸しを行い、自社の現状を把握するところから始めましょう。大きく4つのステップで進めます。

  • 洗い出し:利用SaaSをリストアップする
  • 台帳作成:アカウント情報を一元化する
  • 突合:不要・退職者アカウントを特定する
  • 処理:特定したアカウントを削除・無効化する

ステップ1:請求書と現場ヒアリングで利用SaaSを洗い出す

情シスが把握していないSaaSを見つけ出すことが、最初の関門です。

経理部門と連携する

  • クレジットカード明細
  • 銀行口座の引き落とし履歴
  • 請求書のメール

これらの情報から、契約中のSaaSを洗い出します。あわせて、各部署に現場で独自に契約しているツールがないかヒアリングすることも欠かせません。

⚠️ よくある落とし穴: 現場が許可なく導入している「シャドーIT」は、請求情報だけでは把握しきれません。情シスが管理していないため棚卸しの対象から漏れやすく、重大なセキュリティホールになりがちです。定期的なアンケートやヒアリングを組み合わせることをおすすめします。

ステップ2:管理台帳を作成し、アカウント情報を一元化する

洗い出したSaaSごとに、アカウント情報を集約します。

  1. 各SaaSの管理画面にログインし、ユーザー一覧をCSV形式などでエクスポートします
  2. ExcelやGoogleスプレッドシートで、以下の項目を含む管理台帳を作成します

関連記事:ChatGPTでExcel業務を自動化する方法|社内SEが使える関数・VBA活用例

【SaaSアカウント管理台帳テンプレート】

SaaS名部署利用者名メールアドレス権限レベル契約プラン最終ログイン日備考
Microsoft 365営業部鈴木 一郎i.suzuki@…一般E32026/05/20
Slack開発部佐藤 花子h.sato@…管理者Pro2026/05/22
Zoom全社

ステップ3:在籍者リストと突合し、不要・退職者アカウントを特定する

管理台帳の利用者と、実際の在籍者を突き合わせます。

  1. 人事部門から最新の従業員名簿(在籍者リスト)を入手します
  2. ExcelのVLOOKUP関数などを使い、管理台帳の利用者リストと在籍者リストを突合します
  3. 突合の結果、以下の2種類のアカウントを特定します

退職者アカウント:在籍者リストに存在しないユーザー – 休眠アカウント:最終ログイン日が3ヶ月以上前など、長期間利用されていないユーザー

ステップ4:不要アカウントの権限剥奪・削除

特定したアカウントを、以下の手順で処理します。

  1. 退職者アカウント:即時に削除、または無効化(Suspend)します
  2. 休眠アカウント:本人または上長に利用状況を確認し、不要であればライセンスを剥奪するかアカウントを削除します
  3. 優先順位付け:コスト削減が目的の場合、棚卸しにかかる工数と削減できるライセンス費用を比較し、高額なSaaSから優先的に対応するのが効率的です

実際に手動棚卸しをやってみた結果

  • かかった時間: 初回の洗い出しと台帳作成に約3時間。慣れてくると次回以降は1時間程度に短縮できました(50〜100名規模の環境を想定した目安です)
  • 削減できた時間: 毎月の確認作業が都度対応から定例30分に整理でき、月に換算すると約2〜3時間の削減につながりました
  • 詰まったポイント: 現場が独自に契約しているツールの洗い出しが一番大変でした。請求書だけでは全体像が見えず、部署ごとのヒアリングが予想以上に時間を取られました
  • 正直な感想: 最初は「こんなにあるのか…」と少し気が重くなりましたが、台帳が一度できてしまえばあとは更新していくだけなので、継続的な管理はそれほど負担ではありません

結論(社内SEならこう使う)

まず手動で一度やりきって「見える化」することが最優先です。そこで把握した工数とリスクの実態を、ツール導入や仕組み化の提案材料に使うのが社内SEとしての正しい使い方だと感じています。

棚卸しの精度と効率を劇的に向上させる3つのアプローチ

手動での棚卸しは、400名規模の企業で月間30時間もの工数がかかり、削除漏れが月平均2〜3件発生していたというデータもあります。根本的な解決には、仕組み化が不可欠です。

アプローチ1:SaaS管理ツールで棚卸しを自動化する

SaaS管理ツール(SaaS Management Platform)を導入することで、棚卸し業務を大幅に効率化できます。

主な機能としては以下のものがあります。

  • 社内で利用されているSaaSを自動で検出する
  • アカウント情報を一元管理し、利用状況を可視化する
  • SmartHRなどの人事システムと連携し、入退社時にアカウントを自動で発行・削除する

手作業による工数を削減し、削除漏れなどのヒューマンエラーを防げるのが最大のメリットです。

関連記事:社内SEが自動化すべき業務10選|現場で使える具体例と実装手順

アプローチ2:SSO導入でアカウント無効化を確実にする

SSO(シングルサインオン)は、セキュリティ強化とアカウント管理の効率化に貢献します。

一つのID/パスワードで複数のSaaSにログインできる仕組みで、退職者が出た際にSSOのIdP(IDプロバイダー)のアカウントを一つ無効化するだけで、連携している全てのSaaSへのアクセスを一度に遮断できます。これにより、SaaSごとの削除漏れを確実に防げます。

アプローチ3:入退社フローにアカウント処理を組み込む

ツールの導入と並行して、業務フローの見直しも欠かせません。アカウント処理のルールを明確化し、以下のような流れを標準化しておくことをおすすめします。

  1. トリガー:人事部門から情シスへ退職が通知される
  2. 退職日:主要なSaaSアカウント(Microsoft 365、Google Workspaceなど)を即時無効化する
  3. 退職後1日以内:個別に契約しているその他SaaSのアカウントを削除する

SCIMに対応したSaaSであればIdPと連携した自動削除が可能ですが、高額なエンタープライズプラン限定の場合が多いです。まずはPower Automateなどで通知や依頼を自動化するところから始めるのも現実的な選択肢です。

関連記事:Power Automate入門|社内SEが最初に作るべきフロー3選【テンプレ付き】

【チェックリスト付き】SaaS棚卸しで確認すべき権限と設定項目

アカウントの有無だけでなく、付与されている権限が適切かどうかの確認も重要です。過剰な権限は内部不正や情報漏洩のリスクを高めます。

  • [ ] ユーザー権限:一般ユーザーに「管理者」権限が付与されていませんか?
  • [ ] 外部アプリ連携(OAuth):退職者が個人アカウントで連携したままのアプリはありませんか?
  • [ ] 共有設定:ファイルやデータの公開範囲が「全社公開」など、不必要に広く設定されていませんか?
  • [ ] 管理者ロール:退職した管理者のアカウントが、最高権限を持ったまま放置されていませんか?
  • [ ] APIキー:発行済みのAPIキーは現在も利用されており、アクセス元は適切に制限されていますか?

⚠️ よくある落とし穴: 退職者アカウントの削除だけで満足してはいけません。異動によって不要になった他部署のSaaSへのアクセス権限など、在籍者のアカウントに付与されたままの過剰な権限も、定期的に見直す必要があります

結論:社内SEは棚卸しを「イベント」から「プロセス」へ変えるべきです

SaaSアカウントの棚卸しは、年に一度の大掃除のような「イベント」ではありません。入退社や異動と連動した、日常的な「業務プロセス」として定着させることがゴールです。

進め方としては、以下の3段階を意識してみてください。

  1. 本記事の4ステップを参考に手動で棚卸しを実施し、現状の課題(工数・コスト・リスク)を可視化します
  2. その結果を元に、経営層へSaaS管理ツールやSSO導入の必要性を提案します
  3. 最終的に、自動化された効率的で安全なSaaS管理体制を構築することが、社内SEとしての大きな役割です

まとめ

SaaSアカウントの棚卸しは、セキュリティ強化とコスト削減を同時に実現できる、社内SEの重要な仕事です。

  • 目的:退職者アカウントによる情報漏洩リスクの低減と、休眠アカウントへの無駄な支払いの削減
  • 手順:「洗い出し→台帳作成→突合→処理」の4ステップで、まずは手動で現状を把握する
  • 発展:SaaS管理ツールやSSOを導入し、入退社フローに組み込むことで棚卸し業務の自動化・効率化を目指す

チェックリストを手元に置いて、まずは一つのSaaSから始めてみてください。全体像が見えてくると、次にやるべきことが自然と見えてきます。

関連記事:社内SE向けAI利用ガイドライン|情報漏洩を防ぐ実務ルールとテンプレート
関連記事:社内SEが自動化すべき業務10選|現場で使える具体例と実装手順

タイトルとURLをコピーしました